2020.09.16 16:00

芸術鑑賞も、ネットでできる時代がきた?
バーチャル美術館は、鑑賞体験になるのか


地方の魅力が拡散できるSNSの形とは

新型コロナウイルスの影響で休館中の美術館が、作品をネット上で公開している。この動きは全国的に広がっており、自宅でさまざまな作品が楽しめる。

以前よりスマートフォンを活用し、若者を取り込もうとする美術館が増加している。撮影可能の展示も多く、来館者はSNSでその写真を拡散できる。自分を写り込ませた写真は、作品の大きさや会場の雰囲気が伝わってくる。芸術鑑賞の方法が美術館などに足を運ぶことから、インスタグラムなどのSNSに変化している背景もある。

また、インターネット上で美術館のツアーを提供するバーチャル美術館が増えている。GoogleのサービスGoogle Arts & Cultureにより、バーチャルツアーが可能だ。閲覧できるのは、オルセー美術館(フランス・パリ)・大英博物館(イギリス・ロンドン)など世界的な美術館。作品だけではなく、施設の細部や質感も再現され、見る角度も調整できる。「作品をどう見て、どう感じるか」も、バーチャルで体験できるかもしれない。

博物館に足を運ばない鑑賞の仕方が、どんどん進化している。バーチャル鑑賞は、美術館鑑賞の形の一つになっていくのだろうか。


博物館・美術館離れにバーチャルはどうアピールするか

近年、博物館・美術館離れが課題だ。平成28年度の調査では「1年間にホール・劇場、映画館、美術館・博物館などで文化芸術を直接鑑賞したか」という質問に対し「鑑賞したものはない」と答えたのは40.6%となった。「どうすれば美術館や博物館に行きやすくなるか」という質問に対しては、以下のような回答が出ている。
入場料は収入として、施設の維持費や展示資料の保存などに使われる。博物館離れが進んでいるため、入場料を安くできる博物館・美術館は少ない。また展示資料は、保存の観点から「公開のための移動回数は年間2回以内、公開日数は年間延べ60日以内(保存状態・素材により差がある)」と期間が決まっている。そのため、開催期間の延長は難しい場合も多い。
<参考:文化庁/国宝・重要文化財の公開に関する取扱要項改訂>

バーチャル美術館は、無料で閲覧できるものがほとんど。ガイドや作品解説も利用でき、インターネットから時間を気にせず閲覧できる。移動による疲れや混雑がなく、集中できる環境になるだろう。ハードルの高さも取り払われ、「行きやすい」という条件に当てはまる展示が期待できる。バーチャルでの芸術鑑賞の需要は、今後も高まっていくことが予想される。


博物館がはたすべき4つの役割とは

ところでバーチャル美術館は、博物館の役割をはたすのだろうか。博物館とは、歴史・芸術・民俗・産業・自然科学などに関する資料の「収集」「保管」「展示」「教育」を目的とした施設だ。
<参考:文部科学省/博物館法における博物館法の定義について>

美術・科学など、特化したものによって「美術館」「科学館」と呼ばれる。動物や植物を資料と考えれば、動植物園や水族館なども博物館にあたる。本や授業ではできない、実物と触れ合う体験ができる教育施設だ。Google Arts & Cultureのように「美術館が所有する作品を、インターネット上で観られるようにする」という趣旨であれば、収集・保管している作品をバーチャルで展示すれば、三つの条件は満たしていることになる。

教育については、作品解説や音声ガイドなどは実施されている。公開講座やギャラリートークなどは、映像を使えば再現できそうだ。最近では、ミュシャ財団が線画をウェブサイトで塗り絵として無料公開した。このことから、今後インターネット上での体験型ワークショップが出てくるのでは、と想像する。

需要にマッチしていて、条件としても問題ないようにも思われるバーチャル美術館。本当に、リアルな鑑賞体験が必要とされない時代はきてしまうのだろうか。

観に行っていたものは、展示だけだろうか

作品や展示を観に行った経験があれば、その日のことを思い出してほしい。多くの人でにぎわっていて、作品が注目されていることを実感する瞬間。別の展覧会で、以前も目にした作品に出会う喜び。隣で見ていた人がこぼす、ため息や感想。親が幼い子に作品を説明し、年齢に関わらず一つのものに惹かれている姿。興奮が冷めず、作品について語り合う帰り道。

現場にしかない芸術体験の例として、目の見えない人と一緒に作品を鑑賞するワークショップが、各地の美術館で開催されている。解説文を読み上げるのではなく「なにが描かれているか」「どう感じるか」など、対話を中心とした鑑賞をしている。聞いている人は人々の言葉を楽しみ、見ていた人も説明することで「女性の写真だと思っていたが、長髪の男性かもしれない」といった新しい発見ができる。

鑑賞とは、知識や感性を身につけるだけでなく、展示や作品を自分のものにする体験だ。 それは写真に収めたり、SNSで拡散したりするだけではない。鑑賞の場に足を運ぶと、ただ作品を観たという以上に、誰がそこにいたか・どんな空気だったかを含めて記憶に残る。 思い出とともにあることで、人とは違ったイメージが持てる。そういった対話や空気こそ、鑑賞の意義ではないだろうか。

手軽に楽しめるバーチャル鑑賞は、導入として有効だ。しかしそこで興味をもったら、実際に足を運んで、作品を自分のものにしてほしい。


この記事のまとめ 
  • ネット上の博物館鑑賞が増えている
  • 時間や場所を気にせず、手軽に楽しめる
  • 博物館の展示・教育にも、今後ますます順応していくと考えられる
  • 鑑賞の意義は、展示や作品を自分のものにすること

(執筆:林幸奈)

今回のコメンテーターからのご意見
大平美徳(おおひら・よしのり)
元教師。香川県で生まれ、信州大学を卒業後、昭和50年から平成25年まで教職に従事。管理職歴が長く、指導主事を4年間、教頭を6年間、教育事務所の管理主事・所長補佐を3年間、公立学校の校長を11年間務めた。定年退職後は市教育委員会で4年間勤務し、平成29年に市教育委員会・学校教育課長を退職した。役職として、市の校長会長を2年間、市理科部会長、市学校図書館部会長、県理科部会・副部会長、香川県小学校校長会・副会長などを歴任。
『教育と映画のエッセイ集(MIE):教育エッセイ70話と映画70本(22世紀アート)』の著者。

教育と映画のエッセイ集(MIE):教育エッセイ70話と映画70本(22世紀アート)
“ 新型コロナ流行のために、休館中の多くの美術館がネット上で、バーチャル美術館を開館している。私は、たいへん歓迎したいことである。バーチャル美術館と鑑賞体験と組み合わせることにより、普段は観ることができないものを現実と近い感覚で体験できたり、鑑賞できたりすることが可能になるのである。

美術館に行かなくても、手軽に世界中の名画を、ネットを通してバーチャル美術館で目にすることができるというのは、何とも贅沢なことである。また、足の悪い方などなかなか美術館に足を運べない方にとっても嬉しい体験になる。

しかしながら、「鑑賞は、直接に本物」であるべきだという価値観も当然あると思うし、鑑賞教育においては、ネットではなく「直接に!」という考えもある。しかし、映画「トーマス・クラウン・アフエアー」(1999年)では、ある美術館で引率教師が退屈気味の子供たちの興味を引き出すために、館内のある絵画の途方もない「価格」を告げ、子供たちが歓声をあげてその絵画に目を見張る場面がある。これに揶揄されているように、子供たちにとって芸術作品が本物であることは、どれだけの意味をもつのだろう。また、「絶対に、直接で本物でないといけない」というのなら、「絵画図版」の意味がなくなってしまう。

ネットによるバーチャル美術館では、世界中に飛んで行き作品検索したり、そこでしか鑑賞できないインスタレーションやCG等工夫を凝らした表現も鑑賞できたりし、本物以上の鑑賞体験を提供することが期待できる。コロナ後も、バーチャル美術館によって鑑賞体験の領域が広がる可能性に注目していきたい。



宮内勝廣(みやうち・かつひろ)
元会社員、写真家。千葉県生まれ。1995 年から各種フォトコンに応募、2000 年前後から京都の芸舞妓撮影のほか、欧米はじめ諸国を旅行。
<所属> 
日本写真協会(PSJ)、日本写真作家協会(JPA)、二科会千葉支部
<賞歴>
二科会写真部二科賞(2007)、同写真弘社賞(2009)、入選3回、日本写真家協会(JPS)展入選4回、「写真の日」写真展 協賛会社賞3回、第101 回研展富士フイルムイメー、ジングシステムズ賞(2016)他。
『写真集 祝祭のトポス: ベネチア/ニースのカルナバル (22世紀アート)』『舞妓つれづれ III: 宮内勝廣 写真全集 (22世紀アート)』の著者。

『写真集 祝祭のトポス: ベネチア/ニースのカルナバル (22世紀アート)』
『舞妓つれづれ III: 宮内勝廣 写真全集 (22世紀アート)』
『舞妓つれづれ III: 宮内勝廣 写真全集 (22世紀アート)』


“ いままさにコロナ禍の中、会場に多数集まるような芸術鑑賞状況は3密であり極力避けられていますが、コロナにかかわらず、各種メディアなどでバーチャル鑑賞が普及するのも、背景としてネット社会の増進があるからだと思います。

デジタル化した写真は、色や、明暗、形、大きさが自由に変えられるし、そのうちどれがオリジナルかも見当がつかなくなりますが、その時の気分やオファーに応じ、置かれた鑑賞環境を問わず、視覚中心の2次元世界の作品提供となります。

美術館という箱もの施設は三次元空間の場で空気、におい、静寂を感じ、芸術作品の大きさ、ムーブマン、筆致、質感を五感で体験できます。本来置かれていた場所なども想像でき、大げさに言えば、作品世界に全身で対峙することができるでしょう。

バーチャル美術館に関しては、いかにリアルでも便宜上の疑似体験にすぎないと言えますが、訴求力のある作品に出合うと、没我的状況が訪れ一体感が生じます。リアルさの追求と同時にいかに鑑賞者の想像力を刺激するかが一つの課題なのでは。
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