部下をやる気にさせて動かす「できる上司」の条件とは。
何度も同じことを言っても忘れる部下、わからないのにわかっている風の返事をする部下、指示を出されたことしかやらない部下……そんな部下に苦手意識を持っていませんか?
厚生労働省の統計調査によると、日本で働く人の58%が、「仕事に関する強いストレスを感じる」ことがわかっています。2人に1人以上ということは、あなたの部下も、強いストレスを受けながら働いているかもしれない。ストレスの内容でもっとも多いのが、「仕事の質・量」で、ついで「仕事の失敗、責任の発生等」、「対人関係(セクハラ・パワハラを含む。)」となっている。
上司から部下への適切なかかわり方を知って、お互いのストレスを軽くしたい。部下に苦手意識を持って仕事をしていると、なにかミスが起きたときに問題の本質がわからなくなることがある。「またやった」、「あいつのせいだ」など、ミスの原因が部下にあると無意識のうちに思い込み、上司としての責任から、つい逃げてはいないだろうか。
苦手な部下に我慢して合わせる必要はないが、どこかで折り合いをつけて接していくべきだ。相手の嫌いなところに目を向けるより、考え方や対応の仕方を工夫することで気持ちが楽になるだろう。
そこで、今回は3人のゲストから話を聞き、苦手な部下ともうまく付き合い、信頼関係を築く方法を考えていく。
上司がミスをした部下の話を聞くとき、どんな対応をとるかが信頼関係に大きく影響すると戸田等さん(弁護士)は言う。
上司として大切なことは2つあります。1つ目は話を聞くこと。2つ目は質問に答えることです。1つ目については、だれもが発言・質問ができる環境(雰囲気)づくりに努めているかが重要です。
社会人には、「なにがわからないのか把握し、わからなければ質問する」責任があります。その責任に応えるためにも、2つ目の「質問に答えること」が必要です。このラリーの数が増えていくほど、部下の信頼が積みあがっていきます。
「怒り」は、せっかく積みあげた信頼をゼロにする可能性が高いです。なにか業務のミスがあり、改善のためのアドバイスを伝えるとき、高圧的な態度は瞬間的に話を聞かせる効果しかありません。
話を聞いているような態度をとっていたとしても、信頼は積みあがっておらず、心は完全にシャットアウトしています。
組織としてやっていくならば、人それぞれ違う考えや能力を持っているという前提を心にとめ、言葉で伝えることをあきらめない姿勢が大切だ。「相手に合わせて多様な伝え方ができる人」が信頼される上司になれるのだろう。
上司が苦労することのひとつに、部下を「自律」させることがあげられる。能動的な働きができることが社会人の第一歩だが、上司が工夫して部下にアドバイスを伝えたとしても、もし部下が人任せな「他律」の精神の持ち主であれば伝わらない。
そこで、室江洋さん(マツダ株式会社元社員)は、「自律」の精神を育むためには環境を整えることが必要だという。
個々の責任感があるチームをつくるために、「役割機能の見える化」が有効でしょう。具体的には、役割機能の「なにをどうするか」の量や目標値を設定することです。
そこから、上位の組織→下に位置する各チーム→個人の順で実践していく。そのときに、各チームの役割や目標値が合わさると上位の組織の目標が達成できる、という物語が必要です。
一人ひとりの役割が他者に見えるようになると、自分がなんのために行動しているのかがわかります。自分で考えようという意識は、社内での位置付けや貢献度がわかるように「見える化」することで前に出てくるのです。
社内の役割を曖昧にしない、そうすれば一人ひとりが活躍できる基盤をつくれるでしょう。それが見えないと「他律」に流されやすくなります。
上司と部下の1対1のやり取りで人を「自律」させるのはむずかしい。人間関係は働きやすさにかかわる大切なことだが、その影響力には限界がある。感情からくる絆は意外ともろく、きっかけさえあれば簡単に状況が悪化するだろう。信頼を確立するために必要なものは人柄ではなく環境だ。
一人ひとりの働きやチーム間のつながりをはっきりさせると、その人が持つ本当の価値が見えてくる。部下は自分自身に価値があると思えたとき、初めて自信を持って働くことができるのだ。
自分から動く部下を育てるためには、安心して働ける環境をつくることだ。そのために、まずは信頼される上司を目指してほしい。部下の失敗を「信頼を得る機会」と考えてみよう。感情をコントロールし、誠実な対応とアドバイスをすることが大切なポイントだ。
信頼の土台となる関係を築いたあとは、それぞれの能力を見極め、「期待に応えている」と実感できる目標を設定すること、これこそが上司に求められるマネジメント能力だ。
「仕事ができない部下」はほとんどいない。うまくいかない原因を部下のなかに探すことはやめて、「仕事ができる上司」になろう。
(企画・執筆:佐藤志乃 / 企画・制作:一条恒熙)