●これからの学校の存在価値ってなに?(後編)

教科学習は塾で十分?安心して学べる環境は、一体どこに…。まわりに流されやすい子どもたちが学ぶべきこと。

|子どもの学習意欲を引き出すのは「褒め」

佐藤|
昭和4年生まれの詩人、池谷敦子さんにお聞きします。池谷さんはどんな学生時代を過ごされてきたのでしょうか?
話し手:池谷敦子(いけたに・あつこ)
詩人。
著書に「夜明けのサヨナラ」など、ほか多数
池谷|
小学校は日中戦争、女学校は太平洋戦争のさなかでした。軍の規制は厳しく戦死傷者の家族のかなしみは重かったのですが、当時の国民は「海行かば・・・」の精神で耐えるしかありませんでした。したがって、学校生活などは二の次で、いじめなどはまったくありませんでした。親たちが子どもの教育に過剰な関心を持ったり、他人の子どもと比較したりする暇もなかったからでしょうか。
佐藤|
現代とは大きく状況が違いますよね。どんな教育が子どもの自主性を引き出すと思いますか?
池谷|
人には能力の差があって当然ですから、型にはめず無理押しせず、いつもよく見守って一人ひとりに声をかけてあげることが大切かと。そうすれば生徒たちは、それぞれにやる気が出て、学習する中で「これだ!」と自分で気がつくこともあります。この喜びこそが、学習のみならずその後の人生の核になったりもします。
佐藤|
手を貸すというよりも、声をかけるということが、「いつも見守っているよ」という示しになるのですね。池谷さんご自身は、どんな背景から学びに対する意欲が生まれたのですか?
池谷|
女学生になると、授業は半分に減り、防空壕堀りや軍事訓練になり、三年生以降は女子工員として軍需産業に従事させられました。それでもわたしは幸運でした。ふとした折に、何人かの優れた教師がわたしに声をかけ、自分の気づかぬ能力、あるいは長所を認めてくださったがのです。これがいまに至るまで、わたしの心を温めていただいていることです。あの灰燼(かいじん)の中から、「勉強したい!」という新鮮な意欲が湧き上がってきたときも、心に【これ】があったに違いありません。
佐藤|
教師という身近な大人からの声かけが、池谷さんにとっては大きな励ましとなり、自分の意欲に気がつくきっかけだったのですね。人を認める・褒める言葉には、人生を好転させる大きなパワーがあるな、と改めて思いました。
海外生活と戦時中の学校生活、異なる状況のお話でしたが、どちらも人との出会いが人生に大きな影響を与えています。お二人ともが出会った人から感じたことを自分の中で整理し、行動に移しています。これこそが主体性の正体なのだとわかりました。
「意志をもって人からの影響を受け入れる」この素直さは、学びにおけるもっとも尊いことなのかもしれません。前編・後編を通して4人の方にお話をうかがいました。学びの場が必ずしも学校である必要はないけれど、人との接点が多い学校は学びの機会が多そうだ、と思わされました。