秋山紀勝の「世相、斜め斬り!」ー105歳の名言


10年ひと昔、というから、ふた昔ほど前の話である。当時、きんさん・ぎんさんという長生き姉妹が一世を風靡(ふうび)した。姉妹は100歳になってからテレビのコマーシャルに登場、全国民のアイドルになった。ある年齢以上の人は「ああ、あのきんさん・ぎんさん」と思い出すだろう。1997年夏、名古屋市で「きんさん・ぎんさん105歳誕生日パーティー」があった。

 

会費1万円。だれでも参加出来たので、当時、埼玉県川越市に住んでいた私は「野次馬気分」で申し込んだ。名古屋駅に近いホテルの結婚披露宴会場が会場だった。参加者は200人。正面テーブルの椅子に小柄なきんさん・ぎんさんが座っていた。地元テレビ局の美人アナウンサーが司会を務めた。司会者がいろいろと質問したが、その中で「好きな食べ物は?」と尋ねた。姉妹は異口同音に「魚と野菜」と答えた。ちなみに二人ともタバコと酒は口にしない、とも言った。

当時、姉妹はコマーシャルに出て稼いでいたので、司会者が「ギャラは何に使いますか」と質問すると、姉妹は「老後に備えます」と答えた。105歳の女性の口から出たセリフである。
今年9月15日時点で全国の100歳以上の高齢者は、初めて7万人を超えて7万1238人となった。女性が約88%を占める。新聞は女性の最高齢者は福岡市の人で116歳、男性は新潟県で112歳と伝えた。

 

今夏、夫65歳、妻60歳の年金生活者夫婦が、あと30年、生きるとすると、公的年金のほかに2000万円必要、というニュースが駆け回った。きんさん・ぎんさんが言った「老後に備えます」というセリフは、まさに「名セリフ」となり、今もどころか、今こそ生きていると言えそうだ。

 

最後に司会者は「長生きの秘訣は何ですか」と質問した。きんさんが「長生きしようと思わないことだよなあ、ぎん!」と言うと、ぎんさんが「うんだ、うんだ」と首を縦に振った。この哲学的な発想に、私は「うーん」とうなった。

 

2年半後にきんさん、その翌年にぎんさんが、それぞれ旅立ったが、今、高齢者が生きる環境は悪くなっている気がする。もし、きんさん・ぎんさんが生きていたら、「早くあの世に行きたいなあ、ぎん!」「うんだ、うんだ」と言うのではないか……。

 

執筆
秋山紀勝(日本ペンクラブ会員)