2020.01.06 16:00
親子の不安をフォローするソーシャルワーカーの必要性
避難所で泣く子供に「出ていけ」が通用する社会でよいのか?

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災害が多発した令和元年秋。とくに台風による河川の氾濫は各地に甚大な被害をもたらした。避難所に入りきれない人が続出し、一次的な受け入れ体制ではキャパシティー面の課題が浮き彫りとなった。

避難所から人が溢れていた話を聞くと避難する人が多かったように思えるが、依然として避難率が低い現状を知っておく必要があるだろう。


台風19号で多摩川が氾濫した世田谷区では最大27カ所の避難所を開設し、避難者数は5,376人だった。

10月12日午後3時40分に 「避難勧告(警戒レベル4)」が発令されたのはつぎのエリアだ。
玉川1~4丁目、上野毛2~3丁目、野毛1~3丁目、玉堤1~2丁目、尾山台1~2丁目、瀬田1・4丁目、等々力1丁目、喜多見1~7丁目、宇奈根1~3丁目、鎌田1~4丁目、大蔵5~6丁目、岡本2~3丁目(全て)
このエリアの総人口は35,958人(令和元年10月1日時点)なので、単純計算でも15%以下の避難率だ。他エリアからの避難もあったことを想定すると、実際にはもっと低い避難率になるだろう。

内閣府 防災情報のページによると、避難勧告に関するガイドラインはつぎのように定められている。



子供連れや高齢者、障害がある人の場合は、個々の状況によって避難できる場所が限られることがあるため、ガイドラインはあくまでも目安という認識が必要だ。危険を実感したときには、すでに避難できないかもしれない。想定外のことが起こるのが災害だ。

国土交通省が実施した平成30年7月豪雨「避難しなかった理由」のアンケート調査結果によると、「自宅が安全と判断」したと回答した人が多い。その他、避難しなかった理由として「近隣住民が避難していなかった」「避難するほうが危険と判断」「避難勧告等を認識していない」などもある。

「自宅が安全と判断」した人の中には、避難所の不便さに不安を感じていた人もいたのではないだろうか。避難所では「みんな大変だから我慢しよう」という意識が働くため、特別な配慮が必要な人への支援ニーズを把握しにくい。

しかし近年は、SNSから避難所生活のくわしい体験談を知ることができ、隠れていたニーズに気がつくようになってきた。今回は避難所における親子への支援にスポットを当て、不安軽減のためにできることを考えていく。

そこで、3人の作家から話を伺った。

 

ストレス下で赤ちゃんを攻撃する大人に必要な意識とは?
避難所では赤ちゃんの泣き声に「うるさい」「出ていけ」などという人がいると聞く。赤ちゃんは泣くことをコントロールできないので、自分をコントロールできるはずの大人が「赤ちゃんは泣くもの」として備えておく必要があるだろう。一方で、子供が苦手な人もいることも当たり前なので、お互いのストレス軽減のためにできることを考えていきたい。

林喜代三さん(社会と生活の在り方を考える市民活動グループ・目高舎代表)は、日頃から異なる世代とかかわりをもつことが大切だという。

 

<ゲスト紹介>

林喜代三(はやし・きよぞう)
目高舎代表。
地域共同自給の試み: グループ目高舎の活動記録の著者。


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“ 赤ちゃんが泣くのは当たり前です。自分にもこういう時期があったと思えたらよいと思います。この意識を周知させることが肝心なのではないでしょうか。

災害時に苦手な人と急に仲良くするなんてムリなことです。しかし、苦手だからといって攻撃的に感情をぶつけていい理由にはなりません。

ただ一緒の空間にいる、そういった経験が日頃から必要でしょう。異なる世代が自然と一緒に過ごせる機会が求められる世の中になっています。

どんな状況でもストレスが溜まることはあるわけで、何がよいかは人それぞれです。災害時には、だれもがかかえた条件の中で助け合っていきたいものです。”


被災者のストレス軽減のために求められる内容や方法は、時間の経過とともに変わっていく。

個人では解決できない問題を正しく把握し、適切な支援をしていくためにはどうしたらよいのだろうか?


避難所にソーシャルワーカーが求められるのはなぜ?
忍博次さん(北海道社会福祉協議会副会長 / 日本社会福祉学会名誉会員 / 日本地域福祉学会名誉会員)は親子の居場所づくりが大切だという。

<ゲスト紹介>

忍博次(おし・ひろつぐ)。

北海道社会福祉協議会副会長、日本社会福祉学会名誉会員日本地域福祉学会名誉会員
福祉実践50年を顧みて: 地域共生社会を目指して』の著者。


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“ 親子の安定した居場所をつくる必要があります。隔離ではありません。授乳、おむつ替えなどのケア、母親の情緒的安定の場の確保です。そのために必要なのは、ソーシャルワーカーの介入です。相談やニーズの理解と把握、親子の生活空間と取り巻く人々や関わる組織・集団との調整役を担う存在です。”
ソーシャルワーカーとは

〇生活上困難なことを調整するために公的機関と連携しながら支援する人
〇資格の有無は必須ではないが、社会福祉士や精神保健福祉士をの国家資格をもつ人も多くいる。
“ 赤ちゃんの泣き声は不安の反映です。赤ちゃんの不安は母親の不安の反映でもあります。赤ちゃんの生活は大部分が母親との時間です。母親の情緒が不安定になれば赤ちゃんも危機を感じるのです。赤ちゃんの泣き声はお母さんの不安を代弁しているのかもしれません。”


ソーシャルワーカーは母親の希望を正しく把握し、環境を調整するプロだ。


“ 母親の不安を取りのぞくことが第一ですが、複数の母子がいるならば遊び場の確保と遊び相手(保育者やボランテイア)も用意したいです。手配する際は、その土地の社会資源や文化を考えることも忘れないでください。

専門家の力を借りて優しい居場所をつくる努力は、子育て親子だけでなく多くの人への優しさでもあるはずです。とくに、障がい児や認知症高齢者に対してもすべき支援ではないでしょうか。 ”

一時避難の場合は各自の備えも重要だが、避難生活が長引く場合は組織の連携・整備がより重要になっていく。災害が発生した現地のソーシャルワーカーたちも被災者であることを心にとめ、迅速に外部と協力できるよう備えていきたい。

 

避難所でプライベートな空間をつくる方法とは?
河内千明さん(元長岡市立栖吉小学校校長)は、自身が避難民を受け入れた経験から、スペースの役割を理解した上で必要物品を確保することが大切だと語る。

<ゲスト紹介>

河内千明(かわうち・ちあき)
作家。
無限力への挑戦: すべての子供の可能性を引き出す教育』の著者。
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“ 私は中越地震のとき、当校に1300人の避難を受け入れました。余震が来るたびに外へ避難させなければなりませんでした。「もし雨の中で地震が来たらどうしよう」と心配でたまらなかったです。

そこで自衛隊にグラウンドにテントを貼っていただき、いざというときの避難場所が決まってホッとしたことを覚えています。避難生活が長引く場合はメインスペースとは別に、つぎのスペースがとくに必要となるでしょう。

〇風呂
〇医療行為をするスペース
〇自衛隊の常設テント
※自衛隊のテントは特別な支援が必要な人の居場所として使うこともできる。
〇大型テント
※体育館が危険で一時避難を迫られ、かつ雨が降っている場合に役立つ。

さらに用途に合ったさまざまなテントを備えることで、避難所の住み心地がよくなるという。

“ キャンプ用のテントがあれば子育て家庭用のエリアを作れます。飲料・食料に加えて、避難場所にキャンプ用の小型テントも備えておくとよいです。比較的に安価で購入できます。

視界を区切ることで、子育て家庭とそれ以外の人たち両方の精神的負担が軽くなると考えます。”


見ず知らずの人からの視線は、子供と大人どちらにとってもストレスだ。周囲へ配慮することばかり考えていると、見張られているような感覚に陥ってしまう。似たような境遇の人たちとの空間から得られる安心感もあるだろう。


“ 災害とともに暮らさなくてはならない時代、これからの避難所は、ツラくて苦しい現状を少しでも和らげられる避難所であって欲しいと思います。”

まとめ 
〇日頃から多様な世代がかかわり合える機会が必要。仲良くできるかどうかではなく、一緒の空間にいる体験が大切。

赤ちゃんの泣き声は母親の不安の表れでもある。ソーシャルワーカーを介入させ、母親の不安を解消させることが優先。

〇スペースの確保は精神面に強い安心感をもたらす。多様なサイズのテントを備えておくと、用途に合わせて臨機応変に使える。

 

( 編集:佐藤志乃 / 制作:一条恒熙)