2020.06.16 17:00
歴史を学び、文化を残す
自然災害の被害者・文化財。私たちはどう守っていくか?

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昨年2019年は、災害の多い年であった。特に台風の被害は甚大で、台風の発生数は、平年値の25.6よりも多い29。日本への接近数は15、上陸数は5だった。
<参考:気象庁/各種データ・資料 > 過去の台風資料 > 台風の統計資料>

避難の情報や被害の様子が報道されたが、文化財も被害を受けていたのをご存じだろうか。台風15号による文化財被害件数は122件、台風19号では224件だった(2019年11月1日19時00分時点)。
<参考: 文化庁/台風15及び19号により被災した文化財の復旧について >

台風15号では千葉県の神野寺表門や加曽利貝塚、19号では福島県の白川城跡や群馬県の富岡製糸場が、倒壊・一部破損といった被害にあっている。災害時、人々の安全は第一になる。

しかし長い歴史のなかで守られてきた文化や遺産が、災害によって一瞬でなくなってしまうのは、とても悲しい。災害が起こったとき、文化財を守るために私たちができることはあるのだろうか?

さまざまな文化を見てきた三人の作家から、文化を守り伝えていく方法や意味を聞いていく。
文化財の被害に備え、事前にできることは?

虫明徳二さん(作家)は実際に経験した平成30年7月豪雨と、地域で保存されていた古文書について、こう話す。

 

<ゲスト紹介>

虫明徳二(むしあけ・とくじ)。
作家。
日本遺産認定 玉島町並み保存地区 歴史散歩』の著者。

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平成30年6月28日~7月8日、西日本を中心に全国的に広い範囲で大雨が記録されました。倉敷市真備町(旧・吉備郡箭田村)も大被害にあい、全国からボランティアが大勢かけつけてくれました。

真備町は吉備真備の生誕地で、歴史文化は古代より続いており、倉敷市の古文書が保存してあります。歴史資料整備室のある倉敷市役所真備支所は、この水害では2階まで水がきましたが、
3階に保管していたために難をのがれたのです。


資料を保管している施設は、以下のことを事前に行う必要がある。

・リスクの洗い出し(立地や展示特性、災害や事故などの事例から)
・そこから被害の大きさと発生確率を見当
・リスクへの対応(訓練教育/予防措置/備蓄/保険/対応マニュアルの整備)
<参考:文部科学省/博物館の振興について 博物館における施設管理 リスクマネージメントに関する調査研究報告書 >

書籍は水や湿気に弱いため、水害を避けるためには、高いところに保管するのが正しい選択だ。1階に資料を保管していた公共施設は、多くの公文書が水損した。保存すべき文化は、芸術品だけではない。歴史ある美しい風景も守りたい、と虫明さんはいう。



“ 「万葉集第15巻」に、新倉敷駅の近くにある高梁川の様子を詠んだ歌がありました。

「ぬばたまの 夜は明けぬらし 玉の浦に あさりする 鶴鳴き渡るなり」(訳:夜が明けたようです。玉の浦で餌を探す鶴が、鳴いて飛んでいます)

1990年代フロリダで、地球温暖化による大災害が体験できる展示がありました。その時はまだ先のことだと思っていましたが、30年経った今、災害は現実として日本を襲っています。美しい情景を今も証明するために、歴史・文化の保存、そして防災がいかに大切かを思い知らされますね。


この歌は難波から出発した遣新羅使が、玉の浦(現在の岡山県倉敷市玉島)に宿泊した際、詠んだものとされている。その地に残る芸術品や歴史の記録を、自然災害に奪われない。

過去に人を感動させ、歌として詠まれた美しい場所を、歌とともに残していく。そのためにも事前に考えられる被害に備え、対策をしよう。


歴史や文化の保存に必要な莫大な資金

地域にある文化財を守るためには、住民の理解や協力が不可欠だ。国の指定・選定・登録文化財等は約29,200件あり、文化財の保存・活用には、2019年度で599億7,900円かかるという概算が出された。
<参考:文化庁/文化財の確実な継承に向けた保存・活用の推進 >

文化を守るために、莫大な資金が必要になる。理解を得るには、それが歴史を残すために必要であり、すばらしいものであると、住民に説得する力が必要だ。真下亨さん(作家)は歴史や文化を残し、学んでいくことの大切さについて話す。


<ゲスト紹介>

真下亨(ましも・とおる)。
作家。
中国の歴史絮話』の著者。


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 流転し、変貌をくりかえすことが、人間の文化であり歴史です。人の歴史は、地域社会にも、他国にも、他の時代にもそのまま適用できるお手本になります。

歴史を学ぶ時の驚きは、感動を誘います。これは新しい行動を起こすきっかけ、流転と変貌に繋がり、新たな歴史をつくるのです。



文化財は長い歴史の中で残され、大切にされてきたものだ。地域の住民以外からも必要とされ、歴史や文化を学ぶためにも、現代の私たちが保存し伝えていく義務がある。真下さんは歴史や文化を保存するとともに、自分にできる手段でそれを伝えていくことが大切だと話す。


 文字を持たなかった民族は、自分たちの記録がないため、歴史からも消えてしまいました。芸術分野での表現、出版界や報道界による記述は、人間にとっての大きな任務。そこから新たな変貌が生まれるのです。


真下さんは中国の歴史に関心があり、古代から変わらぬ姿で生活する民族から感動を与えられ、文章として歴史に残そうとしている。歴史や文化から発見があり、新しい感動を生むことがある。

現代で新しい芸術を生み出すためにも、過去を学ぶことは重要だ。若い世代にも残していけるように、自分の言葉や表現で感動を伝えることによって、さらに後の世代に伝えていくための義務でもある。
歴史・文化を学ぶと磨かれる人間力とは?

歴史や文化を学び伝えることは、資料の保存や表現だけでなく、教育の場でも考えられる。木村文人さん(作家)は歴史と文化を通じて、日本人の精神を学べるという。


<ゲスト紹介>

木村文人(きむら・ふみと)。
作家。
きものは人を美しくする: きものが教えてくれる日本の文化と心』の著者。


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 歴史と文化を学び身につけることは、生涯を生き抜く「人の道」を学ぶことです。これからを生きる、次世代を担う子供や孫たちに大きな「夢と希望」を与えます。

生き甲斐を生みだすため、大きな元気と勇気を与えることに大変大きな意味があるのです。


木村さんは、教育の例として以下の3つを挙げている。

1.幼児教育(人や物を大切にすることを教える)
2.母親教育(この世に命を生みだした子供の最初の教育者)
3.教育者の教育(教師として失った教育の復活再生)

教育の場は、学校だけではない。子供にとってはじめての学習の場は、両親や家族から、言葉や常識を学ぶこと。私たち一人ひとりが教育者として、次の世代に伝えていくのだと自覚し、学習しよう。また、私たちが歴史を学べるのは、先人のおかげだ。歴史を学ぶなかで、こうした時代の流れも意識しようと、木村さんはいう。


日本には世界に誇る精神文化に支えられた「道徳」がありますが、戦争によって見失った過去があります。

歴史と文化の学習は、そうした恩恵を受けることです。今の教育のつくるのは、先人によって教育された私たちなのです。


この記事のまとめ 

✔︎ 文化財は災害により、大きな被害にあっている。事前に発生する被害を想定し、リスクを予防しよう。

✔︎ 文化財保護には、多くの人に理解してもらう必要がある。自分が感動したことを記録し、表現することで他者に伝えよう。

✔︎ 歴史や文化を通じて、日本人の精神を学べる。それを築いてくれた先人に感謝し、次の世代に繋げていこう。

(執筆:佐藤志乃)

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