2020.01.17 14:00
未来に残したい日本の美しい自然
日本の四季があぶない! 気候変動は私たちからなにを奪うのか?

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2019年9月より発生し、今もなお続いているオーストラリア森林火災のニュースを見たことがあるだろうか。

火傷したコアラの姿や、燃え盛る炎のなかを逃げ回るカンガルーの姿など、ショッキングな写真が報道されている。今回、日本の森林面積の約40%にあたる1000万ヘクタールの森林が消失し、野生動物は10億匹が死んだともいわれている。 火災の被害が広がった背景には、気候変動が大きな影響を及ぼしているという。

2017年頃から深刻化している干ばつによる乾燥と高温、これらが火災発生のリスクを高めるとオーストラリア政府は警告している。また、雨が降らないことによる水不足の問題も深刻化しており、動物たちの生態系にも影響を及ぼしているという。


日本で自然災害というと地震や台風をイメージする人が多いのではないだろうか。林野庁によると、最近の5年間(平成25年~平成29年)で発生した林野火災は平均で1年間に約1400件だという。
日本で発生した林野火災のうち原因

〇たき火(29.1%ともっとも多い)
〇火入れ
〇放火(疑い含む)
〇たばこ
<出典:林野庁 / 山火事の直接的な原因にはどのようなものがあるの?>


自然発生の森林火災は正直なところ日本ではあまり馴染みがなかった。今回のオーストラリアのニュースは気候変動の恐ろしさを多くの人々に実感させ、自分たちが思っている以上に「地球が危険」だと知らしめた。オーストラリアの若者たちは、学校を休んで政府などに地球温暖化対策の強化を求めるデモに参加する。

日本でそのような事例は少なく、まだまだ行動を起こすハードルが高い。環境問題を「自分の未来にかかわる問題」として、もっと真剣に考えていく必要があるだろう。


そこで、2人の作家から気候変動が日本にどのような影響を与えているのか話を伺い、なぜ自然を守るべきなのか考えていく。
天気図に見られる地球の変化とは?

約40年間仕事で気象を眺めてきた杉山輝吉さん(元日本気象協会職員 / 気象解説者)は、日本の恵まれた自然環境は世界に誇る情緒豊かな国民性と世界に類を見ない独自文化を育んできたという。

 

<ゲスト紹介>

杉山輝吉(すぎやま・てるよし)
元・日本気象協会職員(気象解説者)。
四季に見る 日本の心と人・文化の著者。


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<杉山さん著書『四季に見る日本の心と人・文化』前書きより>

“ 日本は四季の変化が明瞭であり、寒暖暑涼の激しさと植生の多さから自然風景は優しく美しい国と評されることが多いです。なかでも春の桜、秋の紅葉、冬の雪景色は世界からも絶賛されています。

ところが近年は環境問題により、国内においても夏が長くなってきたのではないでしょうか。これらについてIPCC(気候変動政府間パネル)は、人間の経済活動に伴う温室効果ガスの排出が原因であると報告しています。

一方、COP(気候変動枠組み条約)の方は各国の利害が絡み対応に苦慮しているのが現状です。”


いますぐエコ活動に取り組んだとしても、地球温暖化は止まらない。緩やかにゆることしかできないのだ。このまま無関心でいるとどれだけ危険なのだろうか。杉山さんは長年の経験則から、つぎのような天気図の変化が心配だという。
〇 夏場の「クジラの尻尾」といわれていた気圧配置が見られなくなってきた
→クジラの尻尾‥九州を含む西日本を中心に猛暑となることが多い気圧配置

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〇 冬の高気圧の示度(気圧計が示す圧力の度合い)が下がり、冬型が長続きせず、「押しの冬型」が見られなくなった(北極方面で強い寒気が溜まらなくなった?)
→押しの冬型‥西高東低の気圧配置のなかでも、シベリア高気圧の強い勢力の影響で高気圧から押し出されるように季節風が吹く

〇 台風の中心示度が深まり、近海で急発達するようになった(海水温の上昇?)


天気図からわかる気象の変化は、地球の様子が明らかにおかしいことを教えてくれる。気候変動は私たちが生まれてから見てきた美しい景色だけでなく、精神や文化までをも奪う。



 近年は、降り注ぐようであった天の川が消え、季節のメリハリと自然界の透明度がなくなってきたことが気になっています。鮮明で喜怒哀楽の激しい四季が育んできた鋭い感性は、日本人の協調性や勤勉さにも影響しているのではないかと思っています。

自然を征服するという感覚ではなく、自然に生かされているという「感謝の心」が、世界に類を見ない独自の文化をつないできました。

グローバル社会において、伝統的な日本文化の継承がますます大切になってくるでしょう。


都心在住の人や若者たちは自然と触れあう機会が少なく、気候の変化を自分事として考えにくいだろう。しかし自分の未来のために、環境との付き合い方を真剣に考えてみてほしい。自分にとって便利なモノや行動の選択ではなく、地球にやさしい選択をしよう。この選択が、現代の殺伐とした空気感を変えるきっかけにもなると信じている。


消えてしまった動植物のすがたとは?

宇賀神忍さん(栃木県文芸家協会理事)は、少年時代に見た自然や生き物の姿が現代では見られなくなったという。

<ゲスト紹介>

宇賀神忍(うがじん・しのぶ)。
栃木県文芸家協会理事。
季節の歌ごよみ: 人生歳時記』の著者。


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 少年時代を過ごした昭和30年代の山村は、桃源郷でした。春の田んぼには一面に蓮華の花、畑には黄金色に輝く菜の花が咲き乱れ、春の香りを感じられました。村人たちを楽しませてくれたウグイスやメジロ、シジュウカラの美しい歌声。

初夏ともなるとカエルの大合唱が村のすみずみにまで響きわたっていました。麦秋(収穫期の初夏のこと)の頃に長閑で平和な田園生活に彩りを添えてくれた、ヒバリの楽しげなさえずり。


目だけではなく耳や鼻など五感すべてで四季を感じ、季節の移ろいを楽しんでいた少年時代。自然の姿は今、どうなっているのだろうか


 あれから半世紀、農村にも近代化や気候変動の波が押し寄せ、田園風景は一変しました。山林は切り崩され工業団地と化し、田畑に自生していた蓮華や菜の花は農薬によって姿を消しました。にぎやかだったカエルやヒバリの声を聞くこともほとんどありません。


現代の都心部で見られる花といえば、人工的に管理されたものが多い。鳥たちも街で見かけるのはカラス、スズメ、ハトくらいだ。


“ 最近は、山野を散策しても蝶やカタツムリと出会うことはまれで、秋の夕暮れに群れをなして飛んでいた赤トンボの姿も見かけません。昭和の時代に私たちの生活を潤し、心を楽しませてくれたたくさんの動植物の命を奪ったのは間違いなく人間です。

経済を優先し、人間第一主義で突き進んだ結果でしょう。人間の傲慢で自分本位な欲が環境を破壊し、気候変動をもたらしました。人間にとって便利な暮らしは、動植物にとって不便な暮らしだったのです。

今の緊迫した現実に目を向けてください。世界中の人々が一丸となり、地球温暖化防止のために協力しあうときです。動植物たちにとってのびのびと生きられる世界は、長い目で見ると私たち人間にとっても安穏に暮せる世界なはずです。動植物の命の輝きが見られる未来を、自分たちで守っていきましょう。”


自然豊かな環境で生まれ育った宇賀神さんだからこそ、あたり前にあった姿が見られなくなる悲しみを知っている。現代人の多くが、自然や動植物の変化を自分から離れたどこか遠い場所の話だと思ってはいないだろうか。

近年はインターネット上で完結する募金や署名が注目されているが、その手軽さから社会問題へのアクションが表面上だけのものになっている人もいる。もちろん募金や署名も社会を変える大きな力となるが、一時的に満足して終わらないでほしい。

繰り返される暮らしのなかでよりよい選択を続けていくこと、これが私たちに必要なことだ。継続に勝るものはない。

この記事のまとめ 

● 明瞭な四季が日本の魅力だが、夏が長くなるなど気候変動が起きている。天気図の気圧配置の変化からも見て取れる。

● 四季が育んできた鋭い感性は、日本人の協調性や勤勉さにも影響しているのではないか。環境破壊は精神文化への影響も大きい。

● 人間の傲慢で自分本位な欲が、自然や動植物のあたり前だった姿を奪った。農村の田園風景も一変させた。

● 動植物たちにとってのびのびと生きられる世界は、長い目で見ると人間にとっても安穏に暮せる世界。

●環境問題を自分事としてとらえ、暮らしのなかでよりよい選択を続けていくことが大切。

(執筆:佐藤志乃 / 制作:一条恒熙)