2019年12月09日 17:00

文化財を守るための防災
芸術や歴史がつないできた人々の豊かな暮らし

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内閣府によると、令和元年/平成31年に発生した災害は13件で、そのうち、もっとも被害が多かったのは風水害、ついで地震だった。(11月25日9:00現在)

令和元年の秋は過去最大級の台風が発生し、水害によるミュージアムや文化財の被害が大きく報じられた。台風19号で被害を受けた文化財は少なくとも222件で、うち179件は国の文化財だという。
東日本大震災後、国の文化財への防災意識が高まり、事前の対策に目が向くようになった。しかし、泥や海水による文化財への被害は修復方法が確立されておらず、現在も修復作業が完了する見通しは不明だ。

文化財は代えのきかない唯一無二の存在だからこそ、災害は明日起きるものだという意識をもつべきだ。文化庁によると、本年度の文化財修復に関するおもな予算は、次のように組まれている。
〇修理周期による文化財の継承 / 238億2800万円

〇被災文化財の復旧 / 3億1500万円

〇被災ミュージアム再興事業 / 2億5000万円
※文化庁全体予算は1兆1670億900万円

この内容として、文化財の次世代への確実な継承、補助事業による被災文化財の早急な保存・修復、被災地の復興支援などを掲げている。

これらの取り組みは地域がつないできた歴史や精神性を未来につないでくれる。私たちの豊かな暮らしを守り、繁栄を後押しする事業だ。

 

なぜ国が文化財を災害から守るべきなのか?

 

そこで、藤井善三郎さん(芸術小説作家、有鄰館・三代目理事長兼館長、公益財団法人藤井斉成会会長兼有鄰館名誉館長)から、芸術を後世に伝える意味を伺った。
“ 美術品は個人が製作したものであっても、月日とともに人類の遺産となります。作者の手を離れると個人の物でなくなり、社会における人類の遺産としての存在価値をもつのです。ここに文化財保護の重要性と、国家や社会の責務である理由があります。

美術品や文物を後世へ安全に引き継ぐことは、時代を超えて人々の感性に訴え、語りかけます。
国の指定文化財以外に、個人が所有する貴重な作品も守っていかなければならない。あくまでも人命が最優先だが、文化庁は緊急対応の参考として「文化財防災ウィール」を公開している。その中で、つぎの言葉が繰り返し示されている。「緊急時の対応と救出、最初の48時間で差がでます。」
救出のポイント

〇収蔵品を安全な所に移して乾かす。(作品ごとに9種類の方法が示されている。)
 →基本的に自然乾燥が望ましい、直射日光厳禁、カビ防止のため低湿度の徹底。

〇できるだけ早く保存修復の専門家に連絡・相談する。

〇一般に、48時間以内に乾燥が間に合わないものは冷凍する。
 →例外:金属、ガラス板、写真、家具などは冷凍には向かない。

“ 作品は、製作した人の魂の結晶ともいえます。精魂を注いでつくられた美術品の傷ついた姿は、鑑賞者の心をいたたまれない気持ちにさせるでしょう。

これは私たち人間ならではの、豊かな感性が生み出す気持ちです。

美術品が私たちの感性に与える美の力は、真理であり崇高なものです。感性を高めることで人生が磨かれます。魂の結晶である作品は永遠であると信じたい
。”
 
過去の偉人と現代人の精神をつなぐアート

 

藤井さんがこのような思いに至ったのは、幼少期に書道で磨いた感性の影響が大きいと語る。
“ 幼少の頃より書道をはじめましたが、当初は知識がありませんでした。

拓本の臨書(器物などに刻まれた文字や模様を墨によって紙に写し取ったものを手本とし、見ながら似せて書くこと。)をしたときのことです。

拓本の文字は白いのに、なぜそれを黒い墨で書くのだろう?と疑問を持ちました。

そして、だんだんと臨書している作品の書家がどのような気持で書いたのかを考えるようになったとき、時代を超えて私の感性に響いているのだと実感しました。
書と真摯に向き合ううちに、作品から作家へ思いをめぐらせるようになったという。芸術は、時代を超えて当時の人の感情を届けてくれる。
書道は、文字を発明した古代人の心に耳を傾け、その偉大さに敬服するものです。全身全霊で書かれた歴史上の作家の作品には陶酔さえ覚えます。

これは文字がもつ力によるもので、作者の魂の声と私の感性が語り合っているのだと思います。
芸術や文化を守ることは、未来を発展させていくことでもある。今秋の台風被害の報道を通してさまざまな作品や施設が被災したことを知った今、文化財にも防災の意識を持とう。

定期的に管理の場所や方法を見直し、日頃から緊急時の対応を話し合う必要がある。
まとめ

〇文化財は社会における人類の遺産であり、国が守るべきもの。私たちの歴史や精神性を未来へつないでいく責任がある。

〇災害が起きてから作品を救出するのでは遅い。日頃からよく話し合い、文化財にも防災の意識をもとう。



( 企画・執筆:佐藤志乃 / 企画・制作:一条恒熙)

▼ 作家紹介

藤井善三郎
(ふじい・ぜんざぶろう)。
芸術小説作家、有鄰館・三代目理事長兼館長、現在は公益財団法人藤井斉成会会長兼有鄰館名誉館長。
心で観る: 芸術小説』の著者。