2019年11月30日 15:00

障害者の進路選択の可能性を広げる方法
インクルーシブ教育は迷惑なのか?

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みなさんはノーマライゼーションという言葉を知っているだろうか?

「障害者や高齢者がほかの人々と平等に生活する社会を実現させる考え方」である。

2年前のデータにはなるが、2017年に実施された内閣府の「障害者に関する世論調査」によると、国民の8割が「世の中には障害のある人に対して差別や偏見がある」と思っていることがわかった。

この8割の人たちのなかに、障害者に対する差別・偏見のない社会を実現するために行動している人がどれくらいいるのだろうか。<出典:内閣府 /  平成29年度 障害者に関する世論調査

制度的に解消へ向けた取り組みは見られるが、依然として差別・偏見はなくならない。

差別・偏見は、目に見えるものと見えないものがある。

自分でも気づいていないゆがんだ物の見方を無意識バイアスというが、これは育ってきた環境で見聞きした情報によってつくられる。

無意識バイアスはだれもが持っており、まさか自分が他人を傷つけているとは思っていない。
子供のころから日常的に障害者との接点がなければ、お互いに理解し合うことは難しいだろう。

そこで、1人でも多くの人がノーマライゼーションの意識を行動に移せるよう、2人の作家から話を伺い、共生社会で生きるヒントを探っていく。

 障害者の大学進学

令和元年版障害者白書によると、日本の障害者数の概数は963万5千人だ。

その内訳は、身体障害者(身体障害児を含む。以下同じ。)436万人、知的障害者(知的障害児を含む。以下同じ。)108万2千人、精神障害者419万3千人となっている。

複数の障害を併せ持つ者もいるため、単純な合計にはならないものの、国民のおよそ7.6%がなんらかの障害を有していることになる。<出典:内閣府 / 令和元年版 障害者白書(全体版)/ 参考資料 障害者の状況> 


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民間企業の障害者雇用数は年々増加の傾向にあり、平成30年度は53万人以上だった。

このデータが多いか少ないか、考えてみてほしい。 50年以上社会福祉に携わってきた忍博次さん(社会福祉学者、北星学園大学文学部名誉教授)は、障害者の職業選択の可能性について語る。
“ 私が働いていた身体障害者更生指導所に入所した、ある青年の家庭面接をしたときのことです。

母親が「息子はポリオで右足がマヒし、幼児のころから歩行が不自由です。勉強はできたけれど、高校に入って急に成績が落ちました。補装具着用と障害者だから手に職をつけて自立するために入所しました。」と話してくれました。個人調査の内容は、IQ(120)・人格正常・内向性とあります。”

身体障害者更生指導所(相談所センター)


〇身体障害者の相談に応じ、医学的、心理学的及び職能的判定のもと、更生を指導するところ。
<出典:衆議院HP / 国立身体障害者更生指導所設置法より>


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【障害者更生相談センター(大宮)】
“ 成績が落ちたのにはなにか理由があったのかもしれない。本人に「勉強は好きか?」と聞くと、嫌いではないという。

私から本人に伝えたことは、「職業選択は障害者だからと狭く考えないこと」です。本人は進学を考えておらず、将来を不安に思う家族のすすめで職業訓練を選んだようでした。

「大学進学の素質があるから考えてみてはどうか?」とすすめたのをきっかけに本人の気持ちが動き、家族も不安がったけれど承知。その後、彼は職業訓練をしながら勉強に励み、国立大学合格して研究職に就きました。”
本人の意向に加え、家族や周りの大人たちが進路選択の材料となる多面的な情報を示すことが大切だ。そこから何を選択するか、努力できるかどうかは障害の有無とは別の話ではないだろうか。個人の特性による違いだと考える。
“ 物理的・制度的バリアは見えるバリアなので指摘されやすいです。しかし、心のバリアは日本の文化や生活の常識に隠れて気づきにくいです。

職場の合理的配慮について、障害者の立場になって考えてみてください。そうすれば、もっと適職分野が広がるはずです。”
内閣府が掲げる「自立した生活の支援・意思決定支援の推進」のなかに、ピアサポートという言葉がある。


ピアサポートとは


〇ピア(peer)は「仲間、同輩、対等者」の意。

〇同じ課題や環境を体験する者がその体験から来る感情を共有することにより、専門職による支援では得がたい安心感や自己肯定感を得ることなどを目的とする。
<出典:内閣府 / 平成30年版 障害者白書(全体版)


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障害者の家族は、「自分が死んでも自立して生きていけるようになってほしい」という強い思いを抱えている。

そのため、子供の安全な未来のために、参考例が多い堅実な進路をすすめる親が多い。

一方で、本人の特性と進路がマッチせず、社会に出てから苦労するマイノリティが多いのも事実だ。ピアサポートは本人が家族には言いづらい気持ちと向き合い、隠れた将来の可能性を探るために有効な手段ではないだろうか。


 子供に教えるべき共生社会とは?

ノーマライゼーションのひとつに、インクルーシブ教育があります。

これは、障害の有無にかかわらず、子供たちが共に教育を受けることです。現場の人手不足や施設の整備、生徒や保護者の理解など課題が多く、なかなか進んでいないのが現状だ。

鶴良夫さん(元教師)は多様な子供たちが共に学ぶ必要性についてこう語る。
 障害のある人とない人が、日常生活で「いっしょにいる」ただそれだけでも大切な時間です。特別になにかするというより、「こんな風に過ごしているんだ」と知ることに意味があります。

幼少のころからふれ合う機会があると心のハードルが下がり、公共の場や職場で助けが必要な人がいたら気軽に声をかけられるようになるでしょう。当たり前に助け合う気持ちを育む教育が必要です。”
インクルーシブ教育は、抜本的な制度の改善がなされなければ広く浸透することは難しいと考える。カタチだけ整えたとしても、教員の質や労働環境などのさまざまな要因が複雑に影響するからだ。

だからこそ、学校に頼りきりになってはいけない。子供にとって身近な大人たちが、どれだけノーマライゼーションを体現できるかが大切だろう。

自分が当たり前に使う言葉は誰かを傷つけていないか、むやみに自分の欲求を通そうとしていないか考えたい。お互い様の精神が共生社会をつくるのだ。



この記事のまとめ

〇障害者だからといって職業選択を狭めないこと。心のバリアを取りのぞき、個々の特性をよく見て将来を考えるとよい。

〇障害のある人とない人が当たり前に一緒の時間を過ごすことが大切。お互い様の精神が共生社会をつくる。
( 企画・執筆:佐藤志乃 / 企画・制作:一条恒熙)
▼ 作家紹介


忍博次
(おし・ひろつぐ)。
北星学園大学文学部教授。
鶴良夫(つる・よしお)
元教師。
徐福海を渡る』の著者。