2020.03.12 15:00
研究者は「好き」だけでは続かない?
好奇心と根気を忘れない研究者が、大切にしていること

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令和元年、大学院への入学者数は、修士課程で 72,574 人(社会人・外国人も含む)。大学(学部)卒業者の10.5%が、大学院への進学を決めている。
<参考:文部科学省/学校基本調査-令和元年度結果の概要-調査結果の概要(高等教育機関)>

「より専門性の高い学びを求め、自分の得意な研究分野で仕事がしたい」という進学理由が多いが、「就職したくない」「目的はないが、なんとなく進学した」という人もいる。

そのため大学院に進学したとしても、就職活動で他の人に負けないアピールができるよう、功績を残さなければいけない。大学院卒の進路希望で、多く上がるのが研究職だ。

研究職の主な勤務先
◯ 研究所・研究機関
◯ 大学などの教育機関
◯ 民間企業の研究部門

志望理由は「大学に残って、好きな研究を思いっきりやりたい」「企業に入り、自分の発見や研究で、世の中の役に立ちたい」など、さまざま。それぞれ狭き門であり、長く研究を続け、結果を出すことが求められる。

研究の道は、楽しいだけでなく、苦労が多い。好きなことを勉強したいだけでは、仕事にすることは難しいのか?

それぞれの専門分野で活躍してきた二人のゲストから、研究者になるためのヒントを聞いていく。

想像力と好奇心を育てた、名誉教授の小・中学時代

自分の好きなものを見つめ、極めるというのは、簡単そうで難しい。大学に進んだものの「自分はこの道ではなかった」と感じ、大学の専門分野と関係ない仕事につく人は多い。好きなことが仕事にできる人は、どんな人だろう。


 研究に向いている人には、「好奇心」「想像力」「運」があります。それからなにもないところでも、なんとか工夫して必要なものを創りだす心です。


蟹澤聰史さん(東北大学名誉教授)は理科が大好きな少年だった。小学校の担任が古い科学雑誌を教室に持ち込み、中学では物理学校(今の東京理科大学)出身の先生が、さまざまな実験をしてくれたことがきっかけだという。

<ゲスト紹介>

蟹澤聰史(かにさわ・さとし)。
東北大学名誉教授。
「おくのほそ道」を科学する: 芭蕉の足跡を辿る』の著者。

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“ 敗戦後まもない、情報の少ない時代でしたが、こうした環境で情報をかき集めていったのです。私は雑誌を見ながら実験をまねて、ブリキ缶とエナメル線でモーターをつくるなど、危ないことばかりしていました。その源は「好奇心」と「想像力」だったと思います。


研究には基礎研究と応用研究がある。

◯ 基礎研究:学術的な知識、技術と理論の発見に関する研究。
◯ 応用研究:基礎研究を実用的に使えるようにするための研究。

好きなものを見つけ、もっと知りたいと思う好奇心。研究したものを、これから先どうやって役立てていけるかという想像力。どちらも欠かせない根源となる。蟹澤さんは「素朴な疑問をもつことが、研究者への道」と言う。

子どものように純粋な楽しさを忘れず、常に探求していくことが、長い研究の道を進むためのエネルギーとなるのだ。



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研究者がチャンスをつかむため、忘れてはいけないことは?

蟹澤さんは好奇心・想像力にくわえ、「運」も重要だと言っていた。

 マックス・ウェーバーは『職業としての学問』で、「大学の専門職に就くには、僥倖を待つほかない」といっています。大学院を修了したときに、ちょうど助手のポストができました。そこに滑り込んだことは、まさに僥倖でしたね。


『職業としての学問』
◯ ドイツの政治学者・社会学者・経済学者、マックス・ヴェーバー(1864年─1920年)が、1917年、大学生向けに行った演説を本にしたもの。
◯「大学のポストに就けるかは運次第」「自分の専門に特化すべき」といった主張がなされている。

研究職は募集の少なさから、希望通りではない就職になるケースも多いという。運命に身をまかせるだけでなく、チャンスを見つけ、逃さないことが重要だ。

情報収集を怠らず、目標を早くから定め、自分の専門が活かせる就職先をじっくりと探していこう。

また、見つめるべきは自分の道だけではない。



 私の場合、情報が少なく受験勉強などとは無縁の田舎でしたが、小中学校で出会った先生方がとても素晴らしく、環境に恵まれたことも運だったのかもしれません。


自分の世界に没頭する研究者こそ、研究を続けられる環境に感謝し、周囲との人間関係を築いていくことが大切。大人数での研究や発表の場はもちろん、企業であれば他部署の仕事も把握していくなど、周囲への思いやりや協力も必須だ。


とはいえ、現実には「運が大切」とばかりも言っていられません。なによりも与えられた条件で、一生懸命努力することが必要です。


日々のつみ重ねで、チャンスは味方にできる。よい環境で研究を続けるためにも、努力と周囲への協力を忘れずに励もう。

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研究への根気・執念・努力はどうすれば評価されるのか?

好きなことを研究していても、つらい現実に立ち向かうことがある。久行計全さん(元自衛官)は、工学博士・防衛大学教授の経歴があり、研究者に必要なものをこう語る。


 大学だけでなく、すべての職域で研究者としてやっていくために大切なのは、根気・執念・諦めないことにつきます。

「常に疑問や好奇心を持ち、集中力を持続する」といったことを、ノーベル賞受賞者が新聞などでおっしゃっていますが、その上でどんなことにも屈しない強さが必要です。


<ゲスト紹介>
久行計全(ひさゆき・かずまさ)。
元自衛官。
合本 人世と日本人についての考察』の著者。

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大学から博士課程まで、最長11年。卒業後も研究を続けていくとなると、人生のうち長い時間を使う。それでも、何年も結果が出ない実験は多い。企業の研究職では資金面の厳しさや、研究の突然の打ち切りなどにも直面するという。

そうした努力と根気の結晶だからこそ、大きな発見は喜ばしく、人々を感動させる。研究者の努力を数値として評価する材料が、論文だ。



“ 大学の研究者として認められるためには、一にも二にも論文の数。内容ももちろん重要ですが、なんといっても量が必要です。「数打ちゃ当たる」の精神で多作する能力が求められます。


論文は掲載された論文雑誌・引用された回数・獲得研究費も注目される。誤りがあると、ほかの研究者に指摘されることもあるため、内容も今ある力を最大限出して、しっかりした裏づけのもと作成しよう。


研究に必要なのは、特別な力ではありません。狙いを定めて、その真理を明らめるべく、あきらめずに努力を続けましょう。努力の継続と論文の多作、この2点が大学の研究者が常に念頭に置くべきことです。



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この記事のまとめ 

✔︎ 研究者に必要なのは、「好奇心」「想像力」「運」。

✔︎ 
努力とコミュニケーションを忘れないことで、チャンスを味方にする。

✔︎ 研究者にとって、論文の数が努力の評価基準になる。

(執筆:林幸奈)