2019.12.23 16:00
子供憧れの職業「研究者」になるために大切なこと 
没頭よりもコミュニケーションが重視されるのはなぜか?

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子供たちに人気がある職業のひとつに、「研究者」があげられる。さまざまな企業が発表するなりたい職業ランキングでトップ10以内に入っている。

研究者になるにはどのような進路を歩めばよいのだろうか?

文部科学省が発表した2019年度の学校基本調査(速報値)によると、大学(学部)進学率は53.7%と過去最高だった。

高校卒業後、進路の選択肢がさまざまある中、2人に1人以上が大学へ進学する時代。

大学生の就職活動は、早くて大学3年生の5月頃から始まる。実際は大学入学直後から「就職活動で話せること」を主軸として行動する学生も少なくない。

一方で研究者を目指す学生は、学部卒業後に修士課程へ進むことが多い。

修士課程修了後にさらに博士課程へ進むかは、企業の研究者と公的機関の研究者のどちらを目指すかによっても変わってくる。博士課程に進んだ場合は学部4年、修士2年、博士5年の合計11年間という長い学生期間を過ごす。

しかし、長期間を費やしても研究者として国内で採用される枠は少なく、採用されたとしても任期付きである場合も多い。最初から終身雇用であることはまれだ。

これらのことを踏まえ、研究者になるためには大学選択と自分の目指す方向性のマッチングが大切だと考える。そして、夢の実現には莫大な時間とお金がかかるため、覚悟して学び続けられる情熱も必要だ。

そこで、ソ連・ロシア研究者として活躍する望月喜市さん(北海道大学名誉教授)から話を伺い、研究者になるために大切なことを考えていく。
「研究者になりたい」と思ったときにするべきこと
高校生が進路を決める際に、まずはオープンキャンパスに参加するのが一般的だ。大学の数や学部・学科の種類が多様化しているため、どのように学校を絞ったらよいかは学生たちの悩みの種となっている。それでは、オープンキャンパスに参加する前に何をすればよいのだろうか?

<ゲスト紹介>

望月喜市(もちづき・きいち)。
北海道大学名誉教授。
シベリア開発と北洋漁業』の著者。


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「研究者になりたい」と思った高校生が進路決定のとき調べた方がよいことは、自分が基本的に何をやりたいのかについて十分認識することです。そのためには、基本的に理科系人間なのか、文系人間なのかを認識し、その分野の著名な本を多数読むことです。

2019年にノーベル化学賞を受賞した吉野彰氏はつぎのように言っています。

「子供の頃に誰かにきっかけを与えられて将来の道を決める時期が来る。私の場合、小学3・4年生ぐらいで担任の先生に薦められて読んだ、科学者マイケル・ファラデーの著作『ろうそくの科学』がきっかけだった。」

研究者と一括りにしても、研究分野は無限だ。知名度や立地など表層的な部分だけで大学を選ぶと大学ミスマッチが起こる可能性が高くなり、望んだ研究ができないかもしれない。進路選択の際には、自分のやりたい分野がその大学の学科で学べるか、そこの教授がどのような研究をしているかを掘り下げて調べ、論文や資料を読んでみるとよい。

必ずしも高校生の時点でなりたい職業が決まっているのがよいという訳ではないが、自分の興味と向き合う時間を大切にしてほしい。そのために親や教師など周りの大人たちは、子供たちが安心して好きなことを好きといえる環境をつくっていこう。

研究者に求められるコミュニケーションスキル
天才物理学者アインシュタインは1人目の妻と家庭生活について契約を結んでいた。研究に没頭するために「身の回りの世話をしてほしい」「自分のことに干渉しないでほしい」という自分勝手な内容だったという。

このようなエピソードを知る人は、研究者は没頭すると周りが見えなくなる、天才と変人奇人は紙一重という印象を持っているかもしれない。しかし天才といわれるアインシュタインは、こんな言葉を残している。

「私はそれほど賢くはありません。ただ、人より長く一つのことと付き合ってきただけなのです。」

アインシュタインような偏った没頭の仕方をする人は少なく、現代の研究者たちにとって大切なことはコミュニケーション能力だと望月さんは語る。
“ 研究者になるためには、研究に没頭することはもちろん必要ですが、同時に人とのコミュニケーション能力が大事です。
先ほどの話にもあがった吉野彰氏の場合も、研究メンバーの一体感つまり、研究員相互のコミュニケーションが、研究目的を達成するうえで重要だったといっています。

コミュニケーションを強化するには、研究リーダーが謙虚であること 「稔るほど頭を垂れる稲穂かあなたな」を実践することです。

2019年のノーベル賞受賞者のひとりは、「誰からはじめたらいいかわからないくらい多くの人にお礼を伝えたい」と言っています。”
研究は長期間を要し、時には人生のほとんどを費やすことになる。研究人生を長く続けるためには周囲からの協力が必要で、他人に動いてもらうためには丁寧なコミュニケーションが大切だ。
求められるコミュニケーションスキル
〇現状を正しく把握し、次の方策を探るために必要な話を聞く力。
〇関係者や市民にわかりやすく研究内容を伝える力。

「聞く力」と「伝える力」はコミュニケーションの基本だ。

コミュニケーション能力とあわせて、柔軟性と執着心が必要です。この両者は互いに相反するものですが、両者のバランスをとることが必要です。
アニメや映画に登場する研究者は、突出した部分がデフォルメされたキャラクターが多い。実際の研究者という職業は、「当たり前のことを丁寧に継続すること」が求められる。この土台があるからこそ創造性が育まれていくのだ。

 


この記事のまとめ
〇 進路選択では「自分のやりたい分野を認識し、掘り下げて調べること」が大切。そのために、たくさん本を読んで自分の「好き」を深めよう。
〇 研究はひとりではできない。周囲と良好な協力関係を築くため、「聞くこと」「伝えること」を意識した丁寧なコミュニケーションをとろう。
〇 柔軟性と執着心のバランスを大切にし、当たり前のことを継続しながら創造性を育もう。
( 編集:佐藤志乃 / 制作:一条恒熙)