2020.01.08 17:00
不安感が強い現代人へのメッセージ
死後の世界を知る神学者、スウェーデンボルグはオカルトの代表なのか!?

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あなたは霊の存在を信じていますか?

北欧を代表する科学者・神学者・キリスト教神学者のスウェーデンボルグ(1688~1772)。彼は霊の存在について、自身の体験をもとにした著作を発表するとともに、独自の神秘主義的神学を確立した人物だ。

スウェーデンボルグに興味をもつ人たちは、「死後の世界」や「霊界」といったスピリチュアル的な精神世界に惹かれた人が多いのではないだろうか。


彼の著書は『天界と地獄』、『霊界日記』、『スウェーデンボルグの夢日記』などスピリチュアル好きの興味を引くタイトルが並ぶ。(彼の死後に私的な日記を作品化し、出版されたものを含む。)これらの著作には臨死体験や霊と会話した体験が書き遺されており、神秘体験の話だけを知る人はオカルトの代表というイメージをもつだろう。

しかしスウェーデンボルグの科学者としての経歴や、客観的で冷静な観察眼が備わった人物像を知れば、そのイメージが変わるはずだ。


スウェーデンボルグはヘレン・ケラーや鈴木大拙をはじめとする、数々の偉人たちの思想に影響を与えたことがわかっている。彼の手書き文書が2005年にユネスコの「世界の記憶(世界的に重要な記録物への認識を高め、保存やアクセスの促進を目的とした事業)」に選定されたことからも、世界で認められた人物だとわかる。単なるオカルトの代表ならば、ここまで評価されてはいなかっただろう。

そこでスウェーデンボルグへの造詣が深い作家から話を聞き、スウェーデンボルグ神学の思想から人生を豊かにするためのヒントを探る。

 

初代文部大臣 森有礼も心酔したスウェーデンボルグの思想

『スウェーデンボルグと明治の思想人 』『宮沢賢治とスウェーデンボルグ: 日本仏教の未来を見つめて 』の著者である瀬上正仁さん(日本整形外科学会の脊椎外科認定医)は、スウェーデンボルグから影響を受けた日本人について教えてくれた。


瀬上正仁(せのうえ・まさひと)
日本整形外科学会の脊椎外科認定医。


【略歴】
昭和29年に宮城県塩釜市で生まれ、仙台市で育つ。 昭和55年に山形大学医学部を卒業後は、仙台市内で整形外科の診療に従事、専門の脊椎外科手術例多数。 平成25年に仙台市内に「瀬上整形外科医院」を開業、現在に至る。 日本整形外科学会の脊椎外科認定医。 高校時代から神道家の勝又正三師に師事し、師亡き後は師の「魚と水の会」を継承。医業の傍ら、神道を主体とした東洋思想とスウェーデンボルグ神学との関連について研究を重ねている。 日本スウェーデンボルグ協会(JSA)創設当時の運営委員。
魚と水(電子書籍版): スウェーデンボルグ神道家 勝又正三の軌跡』『宮沢賢治とスウェーデンボルグ─日本仏教の未来を見つめて』『スウェーデンボルグと明治の思想人の著者。


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“ 明治末期、スウェーデンボルグの神学書が禅仏教の鈴木大拙によってはじめて邦訳・出版されました。一般の人々にその名が知られるようになったのは昭和50年代以降のことです。

しかし当時は霊界探訪者=オカルトの代表、あるいはキリスト教の異端と決めつけられ、 その知名度も限定的かつ表面的にとらえられたものでした。

その後のオウム真理教事件(1989年~1995年)により日本人の宗教離れが進み、スウェーデンボルグのような神秘的な宗教思想が敬遠された時期がありました。


現代の日本では「宗教」に対して偏った見方をする人が多いように感じる。一部の宗教団体が起こした事件は、宗教が人々の精神を支えてきたことよりも、盲目的な信仰の危うさを広く知らしめることとなった。

そして現代の日本で宗教を語る機会は減り、その話題があがったときにどこか居心地の悪さを感じさせる。日本の人口の約7割が無宗教といわれているが、無宗教である人の中にはそもそも宗教について深く考えたことがない人も多くいるだろう。


“ そんな状況の中、20 年ほど前から、明治初期(鈴木大拙による紹介を遡ること半世紀も前)に渡米し、すでにスウェーデンボルグ神学を学んでいた日本人の存在が明らかにされました。彼らがその宗教的信条をもとに、わが国の政治・文化・教育の面で多大な影響を及ぼしていた事実が注目されるようになってきました。

【スウェーデンボルグ神学を学んでいた日本人】
〇森有礼(もり・ありのり)
日本で初代の文部大臣。イギリス留学時代に英国下院議員ローレンス・オリファントを介してトマス・レイク・ハリスと出会い、キリスト教を学んだ。

〇新井奥邃(あらい・おうすい)
明治から大正にかけて活躍したキリスト教思想家。森有礼が心酔していたスウェーデンボルグ主義の教団に導かれ、アメリカで28年もの信仰生活を送った。帰国後、明治の多くの思想人たちへ影響を与えた。

彼らの実績と生涯を詳しく調査していく中で、彼らの根底に存在していたスウェーデンボルグ神学の本来的な意義や価値が明らかになりました。これは同神学研究の新たな道を開くきっかけとなった出来事です。

これによりスウェーデンボルグ神学が既成宗教の枠を超えた、人間の生き方の本質を追求したものであったことがようやく理解されるようになりました。

そしてその真髄が、禅仏教を普遍化して世界に広めた鈴木大拙、仏教だけに留まらず宗教真理を追求した宮沢賢治、さらには大本教をはじめとする教派神道の指導者たちにも確実に伝わっていたことがわかってきています。


現代人が忘れた心を取戻させるスウェーデンボルグの思想

多くの偉人たちを魅了した、スウェーデンボルグ神学における生き方の普遍的な本質とはいったいなんだろうか。人間は生きていくために社会となんらかの接点が必要だ。現代人は、社会に対する不信感から無意識のうちに利己的な選択をしてしまうことがあるのではないだろうか。

後悔して一時的に言動をあらためても、また同じことを繰り返してしまう。スウェーデンボルグの思想の中には、他者を思いやる軸となりうるメッセージがあると瀬上さんはいう。


現代人に蔓延する不信感や不安感が引き起こす、いじめや中傷。その原因をスウェーデンボルグ神学の立場から突き詰めると、人と人のつながりの希薄さがどうしようもない孤独感となって現れていると考えます。

ココロ優先ではなく、モノ優先の考え方がそうさせているのでしょう。
スウェーデンボルグはつぎのように教えています。
私たち人間が生きているこの現界も霊の世界も、人はひとりでは存在できない。
人と人は互いに役立ち合う関係で成り立っている。
人は神によってそのように作られている。
しかもその役立ちの関係の基本にあるのは、人を愛する心。人間はその物質的な肉体の中に心をもっていて(相応の理)、思いやりの心である愛を自ら育てようと努力することで成長するといいます。

そして、全人類は共通の一神によって造られたと信じることで真の世界平和が実現する、と教えています。”


スウェーデンボルグの思想から影響を受けた偉人たちの取り組みからもそれを感じられるという。


“ たとえば、森有礼(もり・ありのり)が挙げられます。スウェーデンボルグの教説に従い、日本初代文部大臣として 人々が互いに役立ち 合う関係で成り立つ「機能的国家」の確立を目指しました。”
【森有礼氏が取り組んだ当時としては異色の方策】
〇日本の国際的位置を向上させるため、教育による愛国心の育成。
〇男女平等的な観点から女子教育を重んじた。
〇効率性を高める学校管理(学校経済主義)。
〇教育費の受益者負担方式を広く採用した。
 
森文相の教育政策を根幹とした文部省による学校制度全般に関する改革は、学校制度の基礎を確立した。
 
“ そのほかにもスウェーデンボルグから影響を受けた新井奥邃(あらい・おうすい)の教えを受けた人々だと、以下のような人が挙げられます。”
〇田中正造(たなか・しょうぞう)
日本初の公害事件、足尾鉱毒事件を明治天皇に直訴した政治家。公害被災者の救済に命を賭けた。

〇佐藤在寛(さとう・ざいかん)
日本ろう教育の功労者で全道盲聾唖教育の父。函館で特別支援教育に尽力した。

〇篠原無然(しのはら・むぜん)
飛騨地方で活動した社会教育の先駆者。飛騨高山で過酷な仕事をしいられた女工たちの労働条件改善のために奔走した。

とくに新井氏と田中氏は精神的な深い交友があったといわれている。彼らの功績から人と人のつながりを機能させ、市民の暮らしを豊かにしようとしていたことがうかがえる。人のために自分の人生を捧げ、弱者の心の支えとなり多くの人々を救ってきた。


奥邃が学んだスウェーデンボルグの思想が、本来は愛をもって社会的弱者を助けようとする人に勇気と力を与えるものだったことがわかります。彼らの生き方がそれを物語っています。

このような当たり前だが普遍的な宗教真理が、日本人が古くから大切にしてきた神道的な宗教意識にダイレクトに感応するものだと教えてくださったのが、神道家の勝又正三師でした。


勝又正三師については瀬上氏の著書『魚と水(電子書籍版): スウェーデンボルグ神道家 勝又正三の軌跡』で深く語られている。スウェーデンボルグの思想に触れることで、現代の人々が忘れかけた日本人の心を取り戻してくれることを願っている。


この記事のまとめ 

〇 スウェーデンボルグの思想は心霊などの単なるオカルトではなく、人間の普遍的な生き方についての教えが多くある。

〇 私たち人間が生きているこの現界も、また霊の世界も、人はひとりでは存在できず、人と人は互いに役立ち合う関係で成り立っている。その基本となるのが人を愛する心

〇 森有礼、新井奥邃、田中正造といった偉人たちへスウェーデンボルグが連鎖的に影響を与えた。彼らの生き様(社会にどのように貢献したか)が普遍的な思想であることを証明している。

 

( 執筆・編集:佐藤志乃 / 制作:一条恒熙)