●変わる親子関係【後編】

地域や父親の視点から見た家族観の昔と今。無償の愛よりも尊い親子の自立を考える。
2019.09.20 11:00

【前編】のポイント
●子どもとのかかわり方が今と昔で違うのは当然。時代が変われば常識も変わる。
●子どもの行動に余白を持たせて見守ることが大切。
この記事のポイント
●「怒り」の声かけでは子どもに本来の意図が伝わらない。声かけを言い換えよう。●良好な親子関係は支配やコントロールを捨てることが大切。将来を見据え、人間として対等な関係を築こう。
|「ダメ」「やめなさい」はNG!しつけの声かけは言い方次第

 

佐藤。

SOCIO編集長。

佐藤|
子育ての当事者と第三者では立場が違うため、同じ出来事に遭遇したとしても違ったとらえ方をする場合があります。実際に見聞きした具体的なシチュエーションを聞きながら、子どもとの接し方を考えていきます。
東京都看護協会名誉会員の廣野照海さんにお聞きします。実際に子どもとふれ合ったとき、強い言葉で叱らない方が教育に効果的だと思った出来事はありますか?

廣野照海(ひろの・てるみ)

東京都看護協会名誉会員。

著書に『看護のこころ: 忘れえぬ精神科病棟の人たち』。

廣野|
わたしの家族の話なのですが2つあります。1つ目は、幼い男孫と息子である父親とのやり取りです。息子家族が我が家に訪れたとき、孫が箱に入った小銭を見つけて遊んでいました。それを見た父親は、「人のうちの物をとるんじゃない」と孫を押さえつけて責めました。
お金にかかわることは厳しく叱りたくなるのもわかりますが、孫としては瓶の蓋と同じような扱いで遊んでいただけでした。しかも身内の家での出来事です。子どもはお金に対する認識が育っていないのだから、何がいけないのか本質がわからず、高圧的に叱っても委縮してしまうだけです。「これはお金だからなくさないでね」と軽い注意の仕方が適切だと思い、父親に伝えました。
2つ目は、孫娘の遊びを見守っていたときのことです。あるとき、水遊びが大好きな孫は、道端で小石を拾ったり、水をかき回したりして遊んでいました。雨が降っていたので帰りたい気持ちもありましたが、わたしは傘をさしてやりながら見守ることにしました。
この遊びはいつまでも続くわけでなく、堪能すれば止めます。「やめなさい」などと声をかけ中断させると、かえって不満が残り、後々大変になります。親が子どもの行動に理解を示し、思う存分楽しむ体験をさせれば、人格の発達によい影響をもたらすとわたしは思っています。
佐藤|
1つ目については、幼い子どもはお金としてではなく、おもちゃとしての感覚ですよね。発達段階によって根気よく語りかけるべきか、叱るべきなのか違ってきます。なぜ叱られているのか理解できない段階だとしたら親のエネルギーは無駄になりますし、子どもからしたら、ただ「怒られた」という記憶が残るだけになってしまうでしょう。
「人の家で失礼があったら申し訳ない」という気持ちは責任ある親として必要な考えです。しかし、本来の目的を果たすためにはグッとこらえて子どもに伝わる言葉に言い換えることも大切です。
2つ目の例もそうですが、「根気よく見守ること」は本当に難しいと思います。いつも菩薩のような心でいることは無理だったとしても、具体的な言葉の言い換え例を知っておけば役立つこともあるはずです。わたしが教員時代に知っていて助かった「声かけ変換表」をシェアしたいと思います。

出典:らくらくかあさん公式HP(https://www.rakurakumom.com/tools-share

佐藤|
本来は発達障害児向けの支援ツールなのですが、それに限らず子どもとの接し方のヒントが多いです。個性や発達段階によってはすべて当てはまるわけではないですが、怒りに任せた言葉をかけるよりずっと伝わります。
相手の気持ちを認めることや、具体的な提案をすることは大人になってからの人付き合いでも必要なことです。子どものころに大人からかけられた言葉は無意識のうちに影響を与えていると思うと、大人としての責任を感じます。最後に、子どもが大人になっていく過程で、どんな意識を持てば自立した親子関係が築けると思いますか?
廣野|
親は子どもの自立ばかり考えがちですが、親自身の自立が必要だと思います。親子の依存関係は家族の思いやりのように感じられ、本人も周りもわかっていないことが多いです。無意識的なので、親離れ・子離れができずにいる弊害の面には気づきにくいと思います。そのことを注意する人がいたとしても、ますます親子の絆を守り固めることになり逆効果です。
正直、自分たちが実体験から学び、本当の意味で自立の必要性を理解できなければ抜け出すのは難しいです。将来の親子関係を危惧している人ができることとしたら、精神の柔軟性を保つこと、さまざまな意見に耳を傾けること、良識的な心でバランスよく社会とつながることを心がけるのが望ましいです。
佐藤|
お互いに尊重し合った上で自立した親子関係を築いていきたいですね。依存関係の渦中にいると、そこから脱するためには経済的にも精神的にも負担が大きいです。変化にエネルギーを割くことができず、自分のなかに違和感があっても行動に移せないかもしれません。
家族観が変化している時代であることを考えると、今後は親子であっても支配やコントロールをしないこと、人間として対等な関係を築くことが今以上に求められていくでしょう。子どもを社会とつなげることが最も重要な親の役目です。
家族愛は尊いけれど、すべてではありません。幼い子どもは親の言うことを信じるしかないのに、親がどんなことを言うかは環境や人間性によるからです。より多くの大人が子どもに関心を持つ社会になることを切に願います。
【前・後編】を通して親子関係について考えてきました。時代の変化とともに子どもとのかかわり方や家族観も変わってきていることがわかりました。家族や子どもに対する価値観は自由という前提の上で、同じ社会を生きる子どもたちを大切に思う大人が増えて欲しいです。いっしょに未来をつくる同志として、大人の責任を果たしていきたいです。