●英訳「舞姫」を祖父と孫で共同出版!

子どもの夢を応援するあたらしいカタチ。勉強が苦痛にならず、楽しく努力し続けられたのはなぜ?やる気を引き出すサポート方法を知ろう。

2019.09.06 11:00


「勉強しなさい。」世の中の多くの親たちが、子どもに1度は思ったことがあるのではないでしょうか。これには「将来苦労してほしくない」という子どもの幸せを願う切実な想いが込められていて、学習塾に通わせている家庭も多いです。どんなサポートの仕方が、子どものやる気を引き出すのでしょうか?
今夏7月、静岡県在住で高校3年生の水野愛華さん(17)が翻訳家の夢への一歩を踏み出しました。4年半かけて森鴎外の舞姫を英訳し、「THE DANCING GIRL: 英訳『舞姫』」として電子書籍を出版しました。この出版のきっかけをつくり、近くでサポートし続けたのが、元国語教師・森鴎外研究家で祖父の杉本完治さん(75)です。
2人にお話を聞きながら、大人が子どもの夢を応援するあたらしいカタチを考えていきたいと思います。
【人物紹介】

佐藤
SOCIO編集長。
杉本完治(すぎもと・かんじ)
水野さんの祖父。元静岡県立高校国語科教諭。
在職中より森鴎外の人と作品の研究を続ける。関連の著書・論文等多数あり。
水野愛華(みずの・まなか)
杉本さんの孫。浜松西高校3年生、夢は翻訳家。
佐藤|
まず、水野さんはご自身をどんな性格だと思っていますか?
水野|
引っ込み思案です。知らない人には自分から話しかけられません。人前で話すことも苦手です。その反面、何かに打ち込むことは得意です。何をやるにしても「嫌」と言ったことはありません。
佐藤|では、杉本さんは水野さんをどんな人だと思っていますか?
 
杉本|
内向的性格ですが、忍耐強いです。幼少期から現在に至るまで、どんなことにおいても「否」ということばを発したことがありません。
 
佐藤|
逆に、水野さんは杉本さんをどんな人だと思っていますか?
 
水野|
勉強面では常に厳しい人です。あまりに厳しい言葉に何度も涙を流しました。それでも普段は優しい人です。たくさんのことを教えてくれたり、いろいろな場所に連れていってくれたり、困ったときは助けてくれたりします。
 
佐藤|
お互いの印象にズレがなく、等身大の姿を受け止めて信頼関係を築いているのがわかります。
 
水野|
私の自慢の祖父です。
 
佐藤|
素敵な関係ですね。杉本さんは、どんな想いで愛華さんに共同出版をすすめたのですか?
 
杉本|
愛華は幼少のころから英語に強い興味と関心を示し、翻訳家をめざしています。①その1歩を踏み出すこと、②英語に自信をつけること、③1つのことを完成することの大切さを自己体験すること、この3つを目的として出版をすすめました。
佐藤|
普段からどんなことに興味を持っているのかよく見ていたこと、そして一緒にやってみようと提案されたのが素晴らしいですね。
水野さんは杉本さんに共同出版をすすめられたとき、どんな気持ちでしたか?
 
水野|
最初はとまどいました。拙い英訳で大丈夫なのかと心配しました。でも、ここまでやってきたものを無駄にしたくないという気持ちもありました。
 
佐藤|
とまどいよりも「やってみよう!」という気持ちが上回ったんですね。信頼関係のある杉本さんの提案ということで、安心感があったからではないでしょうか…。共同出版をしてみて、お互いの普段とはちがう一面は見えましたか?
 
杉本|水野|
特にありません。
 
佐藤|
普段からよくコミュニケーションをとられているからこそですね!
 
水野|
普段通りでした(笑)
 
佐藤|
杉本さんは水野さんにどんなアドバイスをしましたか?
 
杉本|
①原文に使用されている用語の語意、②作品の時代背景、③場面状況の説明などです。多くのことをアドバイスしました。
 
佐藤|
特に②は間違った認識だと話の内容が変わってしまう可能性があります。水野さんが集中して進められるよう、いい役割分担でサポートされていたのですね。水野さん、きっと翻訳作業の途中で嫌になったり、壁にぶつかったこともあったと思います。どうやって最期までやり遂げたのですか?
 
水野|
開き直りました。ここまできたらやるしかないと思ってやりました。それに加えて、楽しいという気持ちを持ち続けました。
 
佐藤|
苦労をともなう楽しさは、貴重な体験ですね。
 
水野|
私自身、何かを調べたりすることが好きなので、調べることが「楽しい」という気持ちは消えることはありませんでした。チャールズ・チャップリンの言葉、「You’ll never find a rainbow if you’re looking down.(下を向いていたら、虹を見つけることは出来ないよ。)」をこころに留めていました。
 
佐藤|
前向きな気持ちとチャレンジ精神を尊敬します。杉本さんは、水野さんの尊敬しているところはありますか?
 
杉本|
目標に向かってがんばることですね。
 
佐藤|
水野さんは杉本さんの尊敬しているところはありますか?
 
水野|
あらゆる知識を持っているところです。私の知らないことをたくさん、毎日のように教えてくれるので、日々が勉強です。
 
佐藤|
疑問を投げかけたら受け止めて答えてくれる、その繰り返しで今のような関係を築いたのですね。水野さんは現在高校3年生ということで、将来について考える機会が多いかと思います。将来、どんな大人になりたいですか?
水野|
私には翻訳家になりたいという夢があります。今回の翻訳を通して、将来の夢に対する思いが強くなりました。必ず夢を叶えて、笑顔で生きていられるような人になりたいと思います。ウォルト・ディズニーの言葉、「If you can dream it, you can do it.(夢見ることができれば、それは実現できる。)」を忘れずにいたいです。
 
佐藤|
水野さんの夢を応援しています。長い時間をかけて努力することは、大人でも難しいことです。夢を自分のなかに留めず、出版という形で世の中に届けられたことは大きな前進だと思います。出版された今、杉本さんは水野さんにどんな言葉をかけたいですか?
 
杉本|
「舞姫」の完訳までにはいろいろ大変な思いがあったでしょうが、学校の宿題や課題も山積しているなか、よくがんばったと思います。1つのハードルを越えたので、次の目標に向かってがんばれ。
 
佐藤|
水野さんは杉本さんにどんな言葉をかけたいですか?
 
水野|
「ありがとう」です。私がここまで来ることができたのは祖父のおかげです。
 
佐藤|
素敵なお話をありがとうございました。
【インタビュー後記】
お二人の話を聞いて、芯のある温かい人柄が共通しているという印象を受けました。電子書籍の出版は、お互いを理解し合い、日頃から築いた信頼があってこそ成し遂げられたことだと思います。
家族として、ただ楽しい時間を共有することは難しくないかもしれません。しかし、苦労の先にある楽しさは、より密なコミュニケーションがなければ共有できないことです。
大人が子どもの夢を応援をするときには・・・
●挑戦の機会を与え、大人も一緒にやってみること
●子どもがわからないことは一緒に考えること
●頑張りを認め、言葉にすること
水野さんにとって今回の出版は、夢をより現実的な目標に変えた出来事だと思います。コツコツと積み上げながら最後までやりとげた経験は、確かな力となり格別の自信になったはずです。お二人の今後の活躍を期待しています。