●「仕事ができない部下」への対処方法

部下をやる気にさせて動かす「できる上司」の条件とは。


何度も同じことを言っても忘れる部下、わからないのにわかっている風の返事をする部下、指示を出されたことしかやらない部下……そんな部下に苦手意識を持っていませんか?

 

厚生労働省の統計調査によると、日本で働く人の58%が、「仕事に関する強いストレスを感じる」ことがわかっています。2人に1人以上ということは、あなたの部下も、強いストレスを受けながら働いているかもしれない。ストレスの内容でもっとも多いのが、「仕事の質・量」で、ついで「仕事の失敗、責任の発生等」、「対人関係(セクハラ・パワハラを含む。)」となっている。

<参考:平成29年 労働安全衛生調査(実態調査) 結果>

 

上司から部下への適切なかかわり方を知って、お互いのストレスを軽くしたい。部下に苦手意識を持って仕事をしていると、なにかミスが起きたときに問題の本質がわからなくなることがある。「またやった」、「あいつのせいだ」など、ミスの原因が部下にあると無意識のうちに思い込み、上司としての責任から、つい逃げてはいないだろうか。

 

苦手な部下に我慢して合わせる必要はないが、どこかで折り合いをつけて接していくべきだ。相手の嫌いなところに目を向けるより、考え方や対応の仕方を工夫することで気持ちが楽になるだろう。

 

そこで、今回は3人のゲストから話を聞き、苦手な部下ともうまく付き合い、信頼関係を築く方法を考えていく。

|部下の失敗=信頼関係が生まれるチャンス

90%以上の働く人が、仕事のストレスをだれかに相談するという。そのうちの約77%は、上司や同僚に悩みを相談することがわかっている。これは、家族・友人についで2番目に多い。



この統計から、仕事仲間が働く人の精神的な支えになり得ることがわかる。インターネット上で上司への愚痴を目にすることも多いが、相談相手として頼られる存在でもあるということだ。
 
ストレスのおもな原因である「仕事の失敗、責任の発生等」について、実際にはどのようなシチュエーションがあるのだろうか?部下から頼られる上司になるためのヒントを探る。
 
地方新聞社へ入社したあとの数年間、さまざまな失敗を重ねながら成長したと語る町田久次さん(福島民友新聞社元取締役)。記者として、職業人として、考え方を大きく変えるきっかけとなった「失敗」があったという。

駆け出し記者となってまもなく、交通事故の取材で重大なミスを犯しました。「誤報」です。
事故には第一当事者(いわゆる加害者)と第二当事者(被害者)があるのですが、警察署の発表文をメモに写す際、被害者と加害者をとり違えてメモしたため、翌日の朝刊に誤ったまま報じてしまいました。被害者を加害者として報じているのだから、取返しのつかない誤報です。「大変なことになった」と大騒ぎでした。

新人時代の「誤報」が、その後の取材に取り組む姿勢を大きく変えた。はじめての大失敗だったが、社が組織をあげて素早い対応をしてくれたことは不幸中の幸いだった。上司たちの町田さんへの温かい対応が、さらに仕事へのやる気を引き出したという。

直属の上司らが被害者や関係者の方々にお詫びに出向いてくれ、翌日の新聞に丁重なお詫びと訂正の記事が掲載されました。
私自身は意気消沈していましたが、会社が温かく見守ってくれたことが強く印象に残っています。
この経験から、「自分は誤った取材をしているかもしれない」という意識が生まれ、二度と同じミスを繰り返さないために厳しく自己チェックをするようになりました。

この一件以来、取材資料や原稿を念入りにチェックするようになり、本社のデスクから「町田の原稿は(赤鉛筆で)真っ赤だ」と言われるようになったという。
 
はじめから一人前の社会人はいない。部下は上司から仕事を学び上司の背中を見て育つ。失敗したときの真摯な対応が、上司と部下の信頼関係を育んでいったことは間違いない。部下の成長は上司次第だ。
|信頼される上司は感情のコントロールができる

上司がミスをした部下の話を聞くとき、どんな対応をとるかが信頼関係に大きく影響すると戸田等さん(弁護士)は言う。


上司として大切なことは2つあります。1つ目は話を聞くこと。2つ目は質問に答えることです。1つ目については、だれもが発言・質問ができる環境(雰囲気)づくりに努めているかが重要です。

社会人には、「なにがわからないのか把握し、わからなければ質問する」責任があります。その責任に応えるためにも、2つ目の「質問に答えること」が必要です。このラリーの数が増えていくほど、部下の信頼が積みあがっていきます。


もっとも注意すべきは、部下のミスに感情的な意見をしないことだ。感情に引っ張られた行動をすると、部下も発言・質問がしづらくなる。だからこそ、シンプルに「できたこと」と「できなかったこと」を整理し、部下自身に考えさせるようなアドバイスが必要だ。
 
戸田さんが、とくに重要だと語るのは「怒り」のコントロールだ。

「怒り」は、せっかく積みあげた信頼をゼロにする可能性が高いです。なにか業務のミスがあり、改善のためのアドバイスを伝えるとき、高圧的な態度は瞬間的に話を聞かせる効果しかありません。

話を聞いているような態度をとっていたとしても、信頼は積みあがっておらず、心は完全にシャットアウトしています。


人と仕事をするうえで、ミスがゼロになることはない。だからこそ、だれかのミスを責めることにエネルギーを費やすのはもったいない。すっきりするのは怒っている本人だけだ。
 
怒りをコントロールする方法のひとつに、1970年代にアメリカで生まれた「アンガーマネジメント」がある。怒ることは悪いことではないが、怒りによってだれかを攻撃してはいけない。人を傷つけない怒りの表現方法を知れば、「仕事ができる上司」になれるだろう。
怒りの導火線に火がついたら…


●まずは6秒間耐えてみる。
→見えている物の名称を心のなかで唱えるのも効果的。(例:パソコン、机、ペン…など)

●「~すべき」という考えを捨てる。
→「普通は」など、自分のルールを強要しない。

●「して欲しいこと」を伝える。
→「なんで」といった感情を伝えるのではなく、具体的な行動を提案する。

組織としてやっていくならば、人それぞれ違う考えや能力を持っているという前提を心にとめ、言葉で伝えることをあきらめない姿勢が大切だ。「相手に合わせて多様な伝え方ができる人」が信頼される上司になれるのだろう。

|役割の明確化が部下を自律させる

上司が苦労することのひとつに、部下を「自律」させることがあげられる。能動的な働きができることが社会人の第一歩だが、上司が工夫して部下にアドバイスを伝えたとしても、もし部下が人任せな「他律」の精神の持ち主であれば伝わらない。

 

そこで、室江洋さん(マツダ株式会社元社員)は、「自律」の精神を育むためには環境を整えることが必要だという。


個々の責任感があるチームをつくるために、「役割機能の見える化」が有効でしょう。具体的には、役割機能の「なにをどうするか」の量や目標値を設定することです。

そこから、上位の組織→下に位置する各チーム→個人の順で実践していく。そのときに、各チームの役割や目標値が合わさると上位の組織の目標が達成できる、という物語が必要です。


組織が大きいほど、社員一人ひとりと上位組織のかかわりが少なくなり、会社から期待されている実感が得られない。そうすると、やる気やモチベーションが低下し、能動的な「自律」の精神が育まれない。
 
とくに、業務に追われて忙しくしていると「がんばっている自分」に目が向きがちで、目標達成の意味を見失い、責任を他者に見出すことがある。

一人ひとりの役割が他者に見えるようになると、自分がなんのために行動しているのかがわかります。自分で考えようという意識は、社内での位置付けや貢献度がわかるように「見える化」することで前に出てくるのです。

社内の役割を曖昧にしない、そうすれば一人ひとりが活躍できる基盤をつくれるでしょう。それが見えないと「他律」に流されやすくなります。


上司と部下の1対1のやり取りで人を「自律」させるのはむずかしい。人間関係は働きやすさにかかわる大切なことだが、その影響力には限界がある。感情からくる絆は意外ともろく、きっかけさえあれば簡単に状況が悪化するだろう。信頼を確立するために必要なものは人柄ではなく環境だ。

|まとめ

一人ひとりの働きやチーム間のつながりをはっきりさせると、その人が持つ本当の価値が見えてくる。部下は自分自身に価値があると思えたとき、初めて自信を持って働くことができるのだ。

 

自分から動く部下を育てるためには、安心して働ける環境をつくることだ。そのために、まずは信頼される上司を目指してほしい。部下の失敗を「信頼を得る機会」と考えてみよう。感情をコントロールし、誠実な対応とアドバイスをすることが大切なポイントだ。

 

信頼の土台となる関係を築いたあとは、それぞれの能力を見極め、「期待に応えている」と実感できる目標を設定すること、これこそが上司に求められるマネジメント能力だ。

 

「仕事ができない部下」はほとんどいない。うまくいかない原因を部下のなかに探すことはやめて、「仕事ができる上司」になろう。



(企画・執筆:佐藤志乃 / 企画・制作:一条恒熙)

 


▼ ゲスト紹介

【1人目】
町田久次
(まちだ・きゅうじ)。福島民友新聞社元取締役。
【2人目】
戸田等
(とだ・ひとし)。
弁護士。
【3人目】
室江洋
(むろえ・ひろし)。
マツダ(株)元社員。